つくし文具店

つくし文具店とは

つくし文具店は、JR中央線国立駅北口から歩いて20分ほど。静かな住宅街の国分寺第三中学校前にあるちいさな店です。 1964年頃から、ぼくのおふくろが、家のかたすみで細々と営み1990年頃まで約24年間続きました。「つくし」は、「筑紫」であり、おふくろの旧姓です。

ぼくもこどもの頃には、店番を手伝ったり、仕入れにつきあった記憶があります。母は、つくしのおばちゃんと呼ばれ、近所ではちょっとした有名人でした。当時は、中学生が寄り道する店であり、近所のこどもたちの遊び場であり おとなたちの井戸端会議の場所でした。

2004年6月3日、14年ほどお休みして物置になっていたスペースを 長男のぼくが会社を辞めたのを機会に、勝手にあと継ぎ、再オープンしました。リニューアルした店のテーマは、「つながる くらしと しごと」。大きな黒板のある約3坪のちいさな店内は、家でも会社でもない、大人が寄り道したくなるコミュニティスペースとして、全国から文具やデザインに関心のある人が集まり、学べる教室のような場所になっています。

つくし文具店のオリジナル文具のほか、知り合いのデザイナーのてがけた文具の販売、文具やデザインについてみんなで考える場、文具をテーマにした展覧会、ワークショップの開催など、できることから手がけています。 店の空間とグラフィック、そしてオリジナル文具のデザインは、ドリルデザインが手がけています。

2012年からは、「ちいさなデザイン教室」という試みをはじめて、この教室の生徒が日直として日替りで店番をしているという変わったシステムで運営しています。それぞれに、知っていることを持ち寄って情報交換したり、ここから新しい何かがはじまったりしています。 駅から歩くにはちょっとふべんな場所ですが、ふらりと遊びにきてくれるとうれしいです。

ことのはじまり

つくし文具店の再オープンは、ぼくとドリルデザインの林裕輔さんが、新宿の地下のバーで飲んでいる時に冗談のような話からはじまりました。2004年のことです。
ぼくは、会社を辞めて、これから何をしようか思案していて、いずれ実家のある近くで何かしたいと前々から考えていました。
「そういえば、ぼくの実家は、もともと文具店で、そこは今、物置になっているんだけどね」とぼくが切り出すと「いいじゃないですか。そこを片付けて、お店にしたらどうですか」と林さん。「でも狭いし、駅から遠いし、どうなのかなあ」とぼく。「じゃあ、一度見にいきますよ」と林さん。まあ、そんな感じのやりとりから、いつのまにか、ふたりの夢は膨らんでいくのでした。

そこから、つくし文具店再オープン計画が本気ではじまり、もともとの店の名前を活かしつつ、ぼくが「つながる くらしと しごと」というテーマを考え、ドリルデザインがまる「つ」マークをデザインし、白を基調とする外装のデザインがされ、黒板のある内装が生み出され、物置の片付けやら、一部解体やら、大工さんに手伝ってもらいながら改装にいたるのでした。

店の改装がおわる頃には、知り合いのデザイナーなどから商品を仕入れて、そして、店を手伝ってくれるという芳賀八恵さんにも恵まれて、ウェブサイトもできて、なんとなく準備が整っていったのでした。

店のデザイン

DRILL DESIGN ドリルデザイン
林 裕輔

ロゴマークは、「つくし文具店」という店名を聞いたときから、適度な老舗感と誰が見ても一瞬で店名と連動して覚えられるシンプルな、まる「つ」マークが思い浮かびました。

その後、つくしのテーマカラーを何色にしようかと、店の看板の色と外壁の色を何種類かCGでシュミレーションしました。店の脇にある赤いポスト、黄色の車止めの雰囲気を活かせないかと考え直し、看板(旗)は青しかないと結論が出ました。こうしてイメージカラーを青にして、外壁は赤、青、黄の原色のアクセントが映える薄いグレーにすんなりと決まりました。

この色使いは、「バウハウス」というドイツにある歴史的なデザイン学校を意識しています。デザインを伝えるという意味で「国立のバウハウス」というコピーを考えたりしました。この赤青黄がバランスよく配置されたグラフィカルな外観を、イラスト化していろんなところで使用することになりました。以来、このイラストはグラフィックツールのビジュアルの核となっています。

内装のデザインは、外観のコンセプトが決まると同時に教室のような空間という明快なビジョンがうかびました。外観が「国立のバウハウス」ということは、内装のコンセプトは「教室」だと自然に決まりました。授業やワークショップなども出来る空間にしようということになりました。

出っ張った壁(裏側はキッチンの収納になっている)を黒板塗料で塗り黒板にしました。既存の棚を補強し、ベンチにも商品を陳列する台にもなる什器もつくりました。奥には事務スペースを確保し、背面の壁には、掲示板を取り付けました。

掲示板は、展覧会のDMを貼ったり壁に掛けられる小物や薄い紙モノなどを見せるスペースとして狭い空間をサポートします。黒板は当時思っていた以上にいろんな場面で活躍し、つくしの重要なアイデンティティーとなっています。

つながる くらしと しごと 

「つながる くらしと しごと」は、つくし文具店のテーマとしてつくった言葉ですが、実は、ぼく自身の考え方や活動の基本でもあります。大学の頃に、「デザイナーにならない」と決めて、「デザインでできること」を模索しながら、さまざまなデザイナーと仕事をしてきました。そんな中で、いつも「デザインがもっと社会や暮らしに活かされるにはどうすればいいのか」を考えてきました。

「デザインは、人々の暮らしを豊かにする方法」だと信じているのですが、ともすると経済的な利益のためだけにモノをつくって売るためのデザインになりかねない状況に憤りを覚えています。「金儲けのためにいいと思えないものをつくったり」「売るためだけにいいと思えないものを良く見せて伝えたり」そんなことだけにデザインという方法が使われているとしたら悲しいです。

「くらし」は、「生活」であり「消費」、モノを「つかう」こと。
「しごと」は、「産業」であり「生産」、モノを「つくる」こと。

そう考えた時に、デザインの役割は、
「つかう」と「つくる」の間にたって、
「くらし」と「しごと」のいい関係をつくることではないかと思えたのです。

それぞれの「くらし」と、それぞれの「しごと」
どっちも大事にしながら、バランス良く生きていけるような社会になったらいいですね。

日直のこと

「つながる くらしと しごと」をテーマに、2004年6月に再オープンした「つくし文具店」は 利益を追求する店ではありません。地域を開くコミュニティスペースであり、文具のデザインについて あれこれ考える場所です。「日直」は、お金を稼ぐアルバイトでもなく、奉仕的な意味でのボランティアでもなく、仕事を経験するインターンでもなく、あくまでやりたい人がやることを前提にしています。

ぼく自身は、中央線を使って西へ東へと移動して打ち合わせをしたり、学校で学生といっしょに考えたり 、時には地方に行ったりしながら、デザインに関連したモノやコトやバショの企画・プロデュースをするのが仕事です。 ぼくにとって、つくし文具店が仕事と関係ないかというとそんなことはなくて 店に仕事の依頼に来る人もいれば、店で打ち合わせや企画会議をすることもあります。
店にいることで偶然の出会いもたくさんあります。 はじめての人や久しぶりに再会する人との会話を楽しみ、新しい刺激をもらう場所でもあります。
住宅街にあるのんびりしたロケーションの、つくし文具店という場所で日直に参加することで 現在の仕事や学校、家と少し距離を置いて、さまざまな人との新しい出会いが生まれ 何かがゆっくりと育っていけばいいなあと思います。 日直制をはじめて、7年が経ちます。新しい日直が増える一方、日直を卒業していく人もいます。 そうした卒業した日直とのつながりの積み重ねも魅力になっています。

2012年からの日直は、ちいさなデザイン教室の生徒が担当することになりました。教室の生徒が日直をやることが自然だということにようやく気がつき、はじめた試みです。

二代目店主

萩原 修 はぎわらしゅう
デザインディレクター

1961年生まれ。母の実家のある埼玉県児玉町で生まれ、数ヶ月は月島で育つ。両親が土地を求め家をつくり、現在のつくし文具店のある国分寺市に引っ越してくる。 みふじ幼稚園から桐朋小学校、中学校、高校と進み、 すいどーばた美術予備校で一浪し、自転車で通える距離にある武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に入学。 小学校から剣道を習う。中学校は、剣道部。高校、大学はスキー部に所属し、勉強はできないが、身体を動かすことが好きな健康的な日々をおくる。

大学卒業後約10年間は、大日本印刷株式会社で、企業のカタログ、PR誌、カレンダーなどの印刷物を中心に企画・ディレクションをおこなう。1993年からリビングデザインセンターOZONEの立ち上げに参加し、在籍していた約10年間に、300以上のデザインに関連した展覧会を担当するとともに、ショールームや雑誌の立ち上げもおこなう。 2004年に独立してからは、日用品、住宅、店舗、展覧会、コンペ、書籍、雑誌、WEBサイトなどの 企画・プロデュースをてがけている。

また 「中央線デザインネットワーク」「国立本店」「西荻紙店」「てぬコレ」「コド・モノ・コト」「かみの工作所」 「テラダモケイ」「かみみの」「3120」「モノプリ」「ペプ」「旭川木工コミュニティキャンプ」「東京にしがわ大学」「クラフトセンタージャパン」などの活動にも参加している。
著書に「9坪の家」「オリジンズ」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。

ちいさなデザイン教室

萩原 修 はぎわらしゅう
デザインディレクター

「ちいさなデザイン教室」は、2012年からはじまった試みです。少人数で、1ヶ月に1回のペースでつくし文具店に集まって、デザイン周辺の話をしながら、くらしの中でデザインを使ってできることを模索します。

テーマは、「まち」「いえ」「みせ」「もの」「もり」「ひと」「こと」「ほん」「かみ」など。 それぞれの興味関心を集め、つなげながら、これからのデザインについて考え、実現するための時間です。柔軟な思考と、積極的な行動で何かがはじまることを期待しています。

生徒は、月1回程度の授業のほか、月1回程度の日直(つくし文具店の店番)をすることで、店の運営のこと、文具のことなどを実践的に学ぶ機会とします。また、日直の時間を通じて、いろんな人と話をして、あらたな刺激を得る場になればと考えています。

それぞれが、自分のやりたいこと、できることを活かしながら、「つかう」と「つくる」、「くらし」と「しごと」をつなげながら、デザインでできることをいっしょに考え、具体的にプロジェクトにする方法を学び、実践していきます。

これからのデザインを考えてみたい人。自分のくらしとしごとを再構築したい人。地域にデザインを活かしたい人。なんとなくもやもやしている人。デザインに興味があるけど、よくわからない人など。やる気さえあれば、年齢も立場もこえて、どんな人でも参加できます。

おおげさではない、身近なちいさなことから考え、動いていく教室です。

ちいさなデザイン教室
募集人数 24名(先着順)
募集時期 毎年10月頃
クラス 8名×3クラス(月水、木金、土日)
期間 1年間
授業 月1回程度 12回/年
日直 月1回程度 12回/年
その他 遠足や見学会、合宿、発表会など
参加費 無料(ただし、材料費、交通費、飲食費などの実費は各自の負担)
室長 萩原 修
講師 基本的に、いません。自分たちで主体的に学ぶ場です。
ただし、特別ゲストを呼ぶこともあります。
ウェブサイト http://www.nicchoku.net/