つくし文具店

店主雑記

第1回 はじめてのオリジナル文具「つくしえんぴつ」

つくし文具店をはじめた時には、オリジナルの文具をつくることになるなんて考えてもいませんでした。駅から離れた住宅街で、ほとんど人も来ないような小さな文具店がオリジナルの文具をつくるなんて、あまりにも無茶な話です。でも実は人が来ないからこそオリジナルをつくろうということになったのです。つくし文具店ができて半年ぐらいたった時に、あまりに人が来なくて、このままだと、店をやめてしまうのではないかと心配したドリルデザインが、オリジナル文具をつくればやめられなくなるのではないかと考えたのです。もちろん、やめられなくなるだけじゃなくて、オリジナル文具があれば、わざわざ店に来る理由もできます。

たまに来店した人から「手づくりの文具を販売しているのですね」と言われますが、いやいや手づくりじゃないのです。ちゃんと工場やプロに頼まないとこのクオリティーのものはできないのです。
そのあたりは、ドリルデザインがプロダクトデザインを本業にしていて本当に良かったと思います。ロゴや内装のデザインをお願いして、プロダクトデザインとしての文具のデザインを頼まなかったのは、今考えると不思議な感じがしますが、もしかしたら、ドリルデザインは、最初から文具もデザインするつもりでいたのかもしれません。

まあ、そんなこんなで、ぼくの方から頼んだわけではなく、ドリルデザインの方からオリジナル文具の提案がありました。文具づくりがはじまった頃のことは、あまり覚えていませんが、文具なら、まずは、「えんぴつ」だろうと、なんの迷いもひねりもなく決まったような気がします。どんなえんぴつをつくるかに関しては、ドリルデザインの試行錯誤があり、つくし文具店として方向性についての話し合いが何度もありました。

「暮らしの中の文具」という方向性もこの時にでてきたような気がします。自分たちが使い続けたくなるような飽きのこない定番の文具をめざしました。ドリルデザインが、他の「えんぴつ」をリサーチしながら、使い心地の良さをめざし、スケッチを描き、模型で検証し、細部にこだわり、ディティールやプロポーションをつめ、素材や塗装を吟味し、工場とやりとりしながら、仕様を決め、パッケージを考え、少しずつカタチになっていきました。打ち合わせのたびに、進んでいく様子は、とても刺激的で貴重な体験となりました。

「つくしえんぴつ」は、大人が使うことを意識して、ボールペンの長さと太さに近づけたことで、ペンケースにも入りやすく持ち運びやすいかたちになりました。転がらないように、丸い軸にカットされた面は、持つ時の手かがりにもなります。木の質感に白く塗装されたラインが印象的で、ほかにはない佇まいです。太めの芯は、柔らかい4Bで、やわらかく、おおらかに文字や絵をかくことができます。5本入りのパッケージは、細い段ボールでできていて、まるでお菓子のような印象の「えんぴつ」です。

多くの人が、小学校低学年で、だんだん使わなくなってしまう「えんぴつ」。デッサンをならった経験のある人は、文字を書くだけじゃなくて、絵も描く道具なんだと気がつく「えんぴつ」。なんとなく懐かしいけど、日常の中でどう使っていいのかわからない「えんぴつ」。芯が短くなったら、軸といっしょに削って、芯を整えることが面倒でもあり楽しい「えんぴつ」。まだまだ、「えんぴつ」の魅力はよくわかっていないのですが、「つくしえんぴつ」が「えんぴつ」に再会するきっかけになってくれたらうれしいです。